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AGA(アンドロゲン性脱毛症)は、日本を含む世界中で多くの人が経験する脱毛の代表的なタイプです。
現在承認されている非外科的な治療薬はフィナステリドとミノキシジルの2種類のみで、いずれも効果や安全性の面で課題が指摘されています。
そうした中、中国の研究チームが、中国で古くから使われてきた生薬「何首烏(カシュウ)」について、単一の仕組みではなく、ホルモンの調整や毛包細胞の保護、血流改善など複数の経路に同時に働きかける可能性があるとする最新の研究レビューを発表しました。
この記事を読んでわかること
- 何首烏(カシュウ)は、単一ではなく複数の経路に同時に働きかける可能性
- 抜け毛の原因物質を抑える働きや、頭皮の血流を改善する働きが報告された
- 安全性については、まだ十分な検証が必要な段階
※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
用語解説
脱毛の中でも最も一般的なタイプ。男性ホルモンなどが関係するとされ、生え際の後退や頭頂部の薄毛などが特徴です。
1000年以上の歴史を持つ生薬で、主にツルドクダミ(タデ科のつる性多年草)を指します。 この植物は中国原産ですが、江戸時代に薬用として導入されて以来、日本国内の風土に適応し、現在では都市部の石垣や古い市街地などに野生化して各地で見られます。
(学名:Pleuropterus multiflorus / 和名:ツルドクダミ / 漢名:何首烏)
男性ホルモンのテストステロンが、体内で変換されてできる物質。毛包に直接作用し、AGAを進行させる主な原因の一つとされています。
中医学(中国の伝統医学)における体調のとらえ方の一つで、「肝」と「腎」の働きが低下した状態を指します。白髪や脱毛と関連づけて語られることがあります。
(西洋医学の肝臓や腎臓とは異なります)
掲載誌:Journal of Holistic Integrative Pharmacy
論文:「 Research progress on the application of Pleuropterus multiflorus in the treatment of androgenetic alopecia 」
背景:未検証だった「既存薬」と「何首烏」の効果
AGAは臨床の現場で最も一般的にみられる脱毛のタイプで、世界的にはおよそ0.2~2%の人に見られるとされています。
男女どちらにも起こりますが、女性より男性に多いのが特徴です。
中国では男性の約21.3%、女性の約6%が経験しており、発症は若年層で増加傾向にあります。
- こめかみの生え際が後退する
- 頭頂部や額の髪が薄くなる
- 皮脂の多い髪になる / フケが増える
- 頭皮のかゆみや毛包炎、ニキビを伴うこともある
こうした症状に適切な時期に対応しないと、様々な程度の脱毛が進行することがあります。
現在承認されている非外科的な治療薬は、「フィナステリド」と「ミノキシジル」の2種類のみです。
しかし、いずれも副作用が多く、患者が不安から使用を続けられなくなることも少なくありません。
そのため、新しく安全で効果的な治療薬を探すことが求められています。
「何首烏(カシュウ)」の歴史
中国では古くから、生薬「何首烏(カシュウ)」が白髪の早期化や脱毛の治療に用いられてきました。
「何首烏」という名前は、中国の伝説にある「何(か)」という名の老人がこの植物を用いて、白髪が烏(カラス)のように黒くなり若返った」という逸話に由来します。
この生薬は、「肝と腎を補い、血を養い、風を払う」という伝統的な働きに基づいて、毛根を強くすることや、早くに白くなった髪を黒く戻すこと、徐々に進む脱毛を和らげることを目的に使われてきた歴史があります。
こうした伝統的な使われ方は、中医学でいう「肝腎不足」という状態と関連が深いとされ、この状態はAGAと似た特徴を持つと考えられています。
また、何首烏の効果は、現代のAGAで見られる一部の症状とも重なるとされ、近年、AGAの予防・治療への応用について研究が広がっています。
調査方法:「何首烏」に関する文献レビュー
本レビューでは、2015年1月から2025年12月までに発表された研究を対象に、文献調査が行われました。
- 検索対象:中国・海外の主要な学術データベース(中国語・英語の両方で検索)
- 検索ワード:”Polygonum multiflorum” / “何首烏(He Shou Wu)” / “hair growth” / “androgenetic alopecia” など
- 選定基準:重複を除いた上でタイトル・要点をスクリーニングし、何首烏(未加工または加工品)またはその活性成分をAGAに関連するモデルや作用機序の観点で扱った論文のみを対象とした
この調査を通じて、AGAにおける何首烏に関する現時点の知見を整理し、今後の作用機序解明や臨床研究のための土台を示すことが、本レビューの狙いとされています。
結果:「何首烏」の多面的な育毛メカニズム
何首烏(カシュウ)は単一の成分や仕組みで効くのではなく、複数の経路を通じて総合的に育毛に働きかけると考えられています。
今回のレビューでは、大きく5つの働きが報告されていました。
① DHTの生成を抑える働き
AGAの発症には、男性ホルモンの一種であるテストステロンが体内でDHTに変換され、毛包に作用することが関わっているとされています。
この変換を担う酵素が「5α還元酵素」で、既存薬のフィナステリドはこの酵素を狙って働く薬です。
今回のレビューでは、何首烏の抽出物にも、この5α還元酵素の働きを抑える作用が確認されています。
- 何首烏の75%エタノール抽出物:5α還元酵素の活性を最大90.25%抑制
- 何首烏の50%エタノール抽出物:活性を80.7%抑制
- 抽出物の濃度が高いほど、抑制効果も強くなる傾向
何首烏に含まれる成分のうち、フィシオンとエモジンという2つの物質がこの働きの中心とされ、なかでもフィシオンの方がより強い抑制効果を示したと報告されています。
動物実験でも、何首烏を投与したマウスの皮膚組織でテストステロンとDHTの量が明確に減少したことが確認されており、何首烏を含む生薬処方を使った臨床観察でも、血中のテストステロン値が低下したケースが報告されています。
② 毛包の細胞を守る働き
毛髪が育つ過程では、毛包の中の細胞が一定のサイクルで入れ替わっていますが、AGAではこの細胞が本来より早く壊れてしまうこと(細胞死)が、薄毛が進む一因と考えられています。
何首烏に含まれる主要な有効成分には、この細胞の壊れやすさを抑える働きがあると報告されています。
具体的には、「細胞を守る方向に働くタンパク質を増やし、細胞死を進める方向に働くタンパク質を減らす」ことで、毛包の細胞が生き延びやすくなるとされています。
- この成分は10μMおよび20μMの用量で、毛包の細胞(毛乳頭細胞)の増殖を促進し、毛髪の繊維の長さも増加
- 毛包の血管を作る細胞(血管内皮細胞)の増殖を促す報告もあり、栄養や酸素が届きやすい環境づくりに関与している可能性
これらの結果から、何首烏は毛乳頭細胞・毛包幹細胞・血管の細胞など複数の種類の細胞に働きかけ、細胞が壊れるのを防ぎながら、育毛に必要な細胞の増殖を後押ししていると考えられています。
③ 血流を良くする働き
AGAは、ホルモンの影響だけでなく、頭皮の血流が悪くなることとも関係していると考えられています。
血液がドロドロになると毛包への栄養が届きにくくなり、毛包が萎縮して抜け毛につながる可能性があります。
何首烏の抽出物には、この血流を改善する働きがあるとされています。
- 血液の粘度(全血・血漿とも)を下げる
- 赤血球同士がくっつきやすくなる現象(凝集)を抑える
- 血小板の凝集も抑え、血栓のできにくさにつながる可能性
- マウスの実験では、投与後に皮膚の温度が上昇(血流改善を示唆)
ヒトを対象にした報告でも、何首烏を含む生薬スプレーを使った患者で、血液の粘度が低下したという臨床観察があり、動物実験と同様の効果がヒトでも期待できる可能性が示されています。
④ 栄養バランスを整える働き
毛髪が育つには、毛包に働きかけて成長を後押しする「成長因子」と呼ばれる物質と、逆に成長にブレーキをかける物質とのバランスが重要だとされています。
何首烏の抽出物は、このバランスを整える方向に働くと報告されています。
- 毛包の成長にブレーキをかけるタンパク質「Dkk-1」の発現量を明確に減らす
- 毛髪の成長を後押しする複数のタンパク質「IGFBP2、VEGF、EGFなど」を増やす
- 何首烏に含まれるエモジンという成分は、ブレーキ役のタンパク質「TGF-β1(24.7%)」と「Dkk-1(58.2%)」を減少させたと報告されている
このように、何首烏は「ブレーキを弱め、アクセルを強める」形で、毛包が育ちやすい環境づくりに関与していると考えられています。
⑤ 毛髪の成長シグナルを後押しする働き
毛髪の成長には、Wnt/β-カテニンやShh(ソニック・ヘッジホッグ)と呼ばれる「細胞の成長を指令する仕組み」も関わっているとされています。
マウスを使った動物実験では、何首烏の抽出物を2週間塗布することで、これらの仕組みに関わるタンパク質の発現が高まり、休止期にあった毛包が成長期へ切り替わる様子が確認されています。
こうした結果から、何首烏は複数の成分が組み合わさることで、毛包の幹細胞を活性化し、その働きを回復させている可能性が指摘されています。
考察:研究結果の解釈と限界点
この結果から言えること
複数の経路への同時作用
- 頭皮の微小循環改善
- 5α還元酵素の働きの抑制
- 毛髪の成長を指令するWnt/β-カテニン・Shh経路の調整
- 毛包細胞の保護
局所+全身の二重アプローチ
- 局所塗布:毛包への直接作用、育毛の促進
- 経口摂取:肝腎の滋養、気血の調和など全身的な調整
複雑な症例への適合性
- 肝腎不足に伴う早期白髪化など、複雑な要因が絡むAGA症例への適合可能性
- ミノキシジル(単一標的・局所的)と比べ、より全身的・持続的・個別化された治療の可能性
この結果だけでは言えないこと
安全性への懸念
- 肝臓の障害(薬物性肝障害)を引き起こす可能性
- 重症例では急性肝不全に至った例もあった
- 毒性の原因(有効成分の代謝、加工不足、個人差)は未確定
- 加工の工夫による毒性軽減の可能性はあるが、さらなる研究による確認が必要
研究の質的限界
- マウスなどの動物実験や、細胞を使った実験が中心
- 大規模なヒト臨床試験のエビデンスは限定的
- 小規模サンプル・後ろ向き研究デザインが多い
- 動物モデルとヒトのAGA病態の差、結果の転用可能性への制限
複合製剤としての課題
- 他の生薬との組み合わせでの使用が多い
- 成分間の相乗効果は未解明
- 適切な用量の関係性も不明確
- 治療の標準化を妨げる一因になっている
総括:「何首烏」研究が示す新たな視点
今回のレビューでは、「何首烏(カシュウ)」がAGAに対して単一の仕組みではなく、複数の成分・複数の経路を通じて同時に働きかけているということが示されました。
ホルモンの調整、細胞の保護、血流改善など、複数の側面に同時にアプローチするこの働き方は、単一の標的だけを狙う既存のAGA治療薬とは異なるアプローチだといえます。
何首烏は、育毛を直接後押しするだけでなく、「肝と腎を整え、気血のバランスを調える」ことでAGAの根本的な原因にも働きかけるという中医学的な位置づけも持っています。
今後は、こうした経験的な使われ方を、科学的な裏付けのある標準化された治療へと発展させていくことが、研究の次の課題とされています。
また、アーユルヴェーダの生薬タカサブロウ(Eclipta alba)が、作用機序の解明とブランド戦略によって国際的な製品化を実現した例のように、何首烏も同様の道筋を歩むことが、今後の可能性として指摘されています。
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※本記事は、学術誌『Journal of Holistic Integrative Pharmacy』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
論文情報
- 公開日:2025年12月
- 研究機関:中国国内の4機関による共同研究:広東薬科大学(腫瘍免疫学研究室)、中国科学院華南植物園/中国科学院華南国家植物園、中国中医科学院 中薬資源国家重点実験室、湖北和瑞盛業管理有限公司(企業)
- 掲載誌:Journal of Holistic Integrative Pharmacy
- 論文:「 Research progress on the application of Pleuropterus multiflorus in the treatment of androgenetic alopecia 」
資金提供
資金提供元:本研究は、広東省重点研究開発計画「広東省における重要な戦略的野生植物資源の保全と利用」、中央政府主要支出増減プロジェクト「貴重な伝統中国医薬資源の持続可能な利用能力構築プロジェクト」、および広東省自然科学基金から資金提供を受けて行われました。
利益相反:著者の一人は生薬関連企業(Hubei Herui Shengye Management Co., Ltd.)に雇用されており、この点が利益相反として開示されています。また、他の著者については、利益相反の開示はありません。





