「トラウマの記憶が蘇る悪夢」で目が覚めるとき、脳では何が起きている? MRIを用いた脳画像分析

女性が悪夢を見てうずくまっている様子

※この記事は 約4分 で読めます。

トラウマとなった出来事の夢を見て、飛び起きるほど恐い思いをしたことはないでしょうか。

その夢は、まるでその場に戻ったかのように、細部までリアルに見えていたかもしれません。
トラウマ体験のある人の多くが、こうした悪夢に悩まされています。

アメリカ・マサチューセッツ州のマクリーン病院等の研究では、このようなトラウマの再体験をするような悪夢と脳との関連性が調べられました。
その結果、悪夢で感じる恐怖は、トラウマの記憶や心の弱さではなく、夢の内容がリアルに見えるほど強く感じる可能性があるとのことです。

  • 記憶と視覚に関わる脳部位のつながりが、悪夢の「感情の強さ」と「映像の解像度」に関わっていた
  • 悪夢の中でも「映像の解像度」だけが、悪夢症状の重症度と独自に結びついていた
  • 脳のつながりの強さは、PTSDの重症度や悪夢の頻度そのものとは関係なかった

本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。

用語解説

命に関わるような出来事や、強い恐怖を伴う体験をした後に、その記憶が意図せず何度もよみがえったり、強い不安や緊張が続いたりする状態。

脳の左右にひとつずつある、細長い形をした部位で、新しい出来事を記憶として残す働きの中心を担っています。海馬は前方部分と後方部分とで役割が違うことが分かっており、前方部分(海馬前部)は感情に関わる情報、後方部分(海馬後部)は映像や空間といった感覚的な情報に、より深く関わるとされています。

脳の左右にひとつずつある「アーモンドのような形」をした部位で、恐怖や不安といった感情の処理に深く関わっています。

脳の後方に位置し、目から入ってきた情報を処理する部位です。実際に何かを見ているときだけでなく、記憶を思い出して頭の中に映像を思い浮かべるときにも働くことが分かっています。

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著者:SHO|鍼灸師

豪華客船の専属鍼灸師として、40ヶ国160都市以上を巡り、世界中のクライアントを治療してきた経験を持つ治療家。

トラウマ体験のある人の多くが、苦痛を伴う悪夢を経験すると言われており、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された人のうち、70~90%がトラウマに関連した悪夢を経験すると報告されています。

こうした悪夢では、トラウマとなった出来事を、そのまま再現するような映像や場面が現れることが多く、目が覚めた後にも強い感情や鮮明な感覚が残ることが特徴です。

この症状は、PTSD症状のひとつである「日中に記憶が突然よみがえる侵入症状」とも関連することが分かっています。

これまで「トラウマの再体験」という現象は、情動の処理に関わる「扁桃体」、記憶の形成に関わる「海馬」、判断や制御を担う「前頭前皮質」という3つの脳部位の働きによって説明されてきました。

一方で、近年の研究では、海馬は前方部分と後方部分とで役割が異なり、前方部分(海馬前部)は感情に関わり、後方部分(海馬後部)は視覚や空間の情報処理に関わるとされています。

また、「海馬前部と扁桃体のつながり」は感情の想起に関わり、「海馬後部と視覚野のつながり」は視覚的なイメージの想起に関わると考えられています。

そこで研究チームは、アメリカ・ボストン在住のトラウマ体験のある成人を対象に、これらの脳のつながりと、トラウマの記憶が蘇る悪夢との関連性について調べました。

研究の結果、悪夢の怖さを生んでいたのは、恐怖や不安を処理する扁桃体ではなく、記憶に関わる「海馬の後方部分」と、視覚情報を処理する「視覚野」とのつながりでした。

つまり、このつながりが強い人ほど、悪夢の中で感じる感情が強く、見える映像もよりリアルになる傾向があると考えられます。

また、専門家による評価でも、2つの指標(感情の強さと映像の解像度)が「悪夢症状の重症度」と関連しており、特に「映像の解像度」は症状の重さに最も影響していました。

一方で、この脳のつながりの強さそのものは、PTSDの重症度や悪夢が起きる頻度とは関連しておらず、この傾向は、PTSDの診断の有無や症状全体の重さによっても変わりませんでした。

ただし、この脳のつながりは安静時に測定されたものであり、実際に悪夢を見ている最中の脳の状態を直接示すものではありません。

対象も、悪夢を一定回数以上経験した人や、白人・非ヒスパニック・女性に偏っており、悪夢の少ない人や異なる背景を持つ人にも同じ傾向が当てはまるとは限りません。

また、トラウマと関係のない一般的な悪夢との関連性やトラウマによる脳への影響などは、今回の研究だけでは分かりません。

「トラウマの記憶が蘇る悪夢」を見た本人が感じる恐怖や不安の大きさは、心の弱さやトラウマの記憶が強く残っていることではなく、その悪夢がよりリアルに見えることによって生まれている可能性があります。

また、PTSDの症状全体は軽くても、非常にリアルで恐ろしい悪夢に苦しんでいる場合もあるということです。

トラウマによる悪夢の恐怖が、頭の中に映し出される映像の「見え方」と結びついているという発見は、悪夢そのものを独立した治療対象として捉え直すきっかけになるでしょう。

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※本記事は、国際的な学術誌『Translational Psychiatry』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。

詳しい調査方法が気になる方は、こちらもご覧ください

対象:アメリカ・ボストン在住のトラウマ体験がある成人
条件:重大な外傷体験があり、直近1ヶ月に週2回以上トラウマに関連した記憶が蘇った人
記録:2週間にわたり、毎朝アプリで悪夢の有無と5つの性質(記憶の鮮明度・映像の解像度・感情の強度・追体験の感覚・内容の断片化)を記録
除外:記録期間中の悪夢が2回未満の参加者、MRI画像に問題があった参加者
最終分析対象:66名(女性54名、平均年齢33.5歳)
症状評価:専門家面接(CAPS-5)でPTSD診断・重症度・悪夢症状の重さを評価(85%がPTSD診断基準を満たす)
脳画像:安静時fMRIで、海馬前部と扁桃体、海馬後部と視覚野、それぞれのつながりの強さを測定
研究機関:マクリーン病院/ハーバード大学医学大学院/ワシントン州立大学
資金提供元:米国立衛生研究所(NIH)
利益相反:著者らは利益相反がないことを申告しています。

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SHO|鍼灸師

豪華客船の専属鍼灸師として、40ヶ国160都市以上を巡り、世界中のクライアントを治療してきた経験を持つ治療家。
24歳で全国グループの鍼灸整骨院にて責任者・エリア統括を歴任し、27歳で海外へ。
現在は、13年の臨床経験と海外で培ったグローバルな知見をもとに、世界最前線の情報を精査し、Synclyeeで発信しています。

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