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瞑想を長年続けている人の脳には、どのような影響があるのでしょうか。
瞑想には、気持ちが落ち着いたり、集中力が高まったりする効果があるとされています。
今回の研究では、こうした効果の背景にある脳の働きを調べたところ、脳の機能と神経回路に違いがみられ、特に機能面で大きな差があることが分かりました。
この記事を読んでわかること
- 瞑想の熟練者は未経験者と比べて、脳の機能と神経回路の両方に違いがみられた
- 神経回路の違いはごく一部にとどまり、機能の違いの方が大きかった
- 感情への「気づき」に関わる脳の領域が、両者を分ける鍵になっていた
※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
用語解説
心拍や呼吸、体の緊張など、自分の内側で起きていることを感じ取る感覚です。今回の研究では、脳の中の「島皮質(とうひしつ)」という領域が、この内受容感覚や、感情への気づきに関わるとされています。
脳の一つの領域が、別の領域に及ぼす影響の向きと大きさを示す指標です。
脳の領域同士が、同時にどれくらい活動しているかを示す指標です。実効結合とは異なり、影響の向きまでは分かりません。
脳の領域同士をつなぐ「神経線維」の物理的なつながりの強さを示す指標です。
特定の対象に意識を向け続ける瞑想法です。今回の研究で用いられた「アーナーパーナサティ」は、この方法に含まれます。
心に浮かんでくることを、そのまま受け止める瞑想法です。
掲載誌:Brain Structure and Function
論文:「 Meditation-induced effects on whole-brain structural and effective connectivity 」
背景:瞑想は脳の「機能」と「神経回路」にどんな影響を与えるのか
「心は変えられるものであり、瞑想はそのための手段である」
世界で最も知られる仏教指導者の一人、第14世ダライ・ラマは、2015年の著書の中でこう述べています。
瞑想は東洋の古い伝統に根差した習慣ですが、近年は西洋社会でも広く親しまれるようになり、科学的な関心の対象となっています。
瞑想には、注意力の向上や感情の調整、幸福感の高まりなど、さまざまな恩恵があることが知られています。
また、瞑想の熟練者は未経験者と比べて、脳の形や機能にも違いがあることが分かってきました。
しかし、これまでの研究の多くは、瞑想によって脳がどう変わるかを観察するにとどまり、どのような仕組みで変化が起きているのかは分かっていませんでした。
そこで今回の研究では、脳全体の活動をコンピューター上で再現するモデル「MOU-EC」を使い、瞑想が脳の機能や領域同士のつながりに与える影響を、仕組みごと明らかにする試みが行われました。
調査方法:MRIと機械学習で読み解く「脳への影響」
本研究は、瞑想の熟練者と未経験者を比較する形で行われました。
| 対象 | 瞑想の熟練者 | 未経験者 |
|---|---|---|
| 人数 | 19名 | 19名 |
| 平均年齢 | 39.8歳 | 39.8歳 |
| 瞑想の経験 | 1000時間超 / 1日1時間超の日課 | なし |
※年齢・性別・教育水準については、両群で偏りがないよう調整されています。
測定条件
測定は、安静状態と瞑想状態という2つの条件で行われました。
- 安静状態(約15分):画面中央の十字を見つめ、特に何も考えないようにする
- 瞑想状態(約15分):呼吸に意識を集中する「アーナーパーナサティ」という瞑想法を実施
瞑想には、特定の対象に意識を向け続ける「集中型」と、心に浮かぶことをそのまま受け止める「オープンモニタリング型」という、大きく2つの型があります。
今回用いられたアーナーパーナサティは、このうち集中型に分類される瞑想法です。
測定方法
- 脳の機能:MRIで脳の活動を撮影し、安静状態と瞑想状態それぞれのデータを取得
- 脳の神経回路:MRIで神経線維の通り道を調べ、脳の各領域がどれだけ物理的につながっているかを数値化
得られたデータをもとに、「MOU-EC」というモデルを使って、神経回路の情報から脳領域同士の影響関係(実効結合)が推定されました。
さらに、脳の機能(機能的結合・実効結合)と神経回路(構造的結合)の情報を機械学習にかけ、「安静状態または瞑想中」「熟練者または未経験者」を脳のデータだけで見分けられるか調べました。
また、判別に特に役立つ脳領域のつながりも特定し、熟練者と未経験者で神経回路の強さが違うネットワークも探しました。
結果:瞑想による脳の変化
脳のデータから、瞑想の熟練者と未経験者の脳を比較したところ、機能と神経回路のどちらにも違いがみられました。
瞑想は、未経験者でも見分けがつくほど、脳の機能に特徴的なパターンを残すことがうかがえます。
脳の「機能」の違い
熟練者と未経験者を最も精度よく見分けられたのは、脳領域同士がどちら向きに影響し合っているか(実効結合)という情報を使った場合でした。
- 安静状態での判別精度:67%
- 瞑想状態での判別精度:68%
安静時よりも瞑想時の方が、わずかに見分けやすい結果となりました。
判別に役立ったつながりは、左半球を中心に、前頭部から後頭部にかけて分布しており、条件によって次のような違いがありました。
- 安静時:視覚や皮質下の構造(扁桃体 / 視床 / 被殻)が、より多く関わっていた
- 瞑想時:注意や意思決定などに関わる「複数のネットワーク間のつながり」が目立った
脳の「神経回路」の違い
MRIで神経線維の通り道を調べたところ、瞑想の熟練者は未経験者と比べて、左半球内の一部の領域間で、神経回路が強くなっていました。
具体的には、以下の3つの組み合わせになります。
- 左の体性運動領域と左の被殻
- 左の体性運動領域と左の前頭眼野
- 左の視覚領域と左の被殻
一方で、瞑想によって神経回路が弱まっている部分は、どこにも見つかりませんでした。
考察:研究結果の解釈と限界点
この結果から言えること
- 瞑想の熟練者と未経験者では、脳の機能と神経回路に違いがあった
- 瞑想は神経回路そのものより、機能により大きな変化をもたらした
- 機能と神経回路のパターンの間には、相乗効果があると考えられる
- 内受容感覚に関わるとされる領域の活動が、熟練者と未経験者を分ける鍵になっていた
- 神経回路の変化は限られた範囲に集中していた
- 脳の機能的なつながりの強さと、神経回路のつながりの強さの間には、一定の対応関係があると考えられる
この結果だけでは言えないこと
- 今回の違いが、瞑想によるものか、もともとの体質によるものなのかは判断できない
- 瞑想によって「感情への気づき」が実際に向上したことまでは、実証されていない
- 呼吸に意識を集中する瞑想法のみの検証であり、他の瞑想法でも同じ違いがみられるかは分からない。
- 特定のコミュニティに所属する19名ずつの少人数であり、より幅広い人にも同じ結果が当てはまるとは限らない
- 対象者は、すでに1000時間以上の経験を積んだ熟練者であり、これから瞑想を始めた人への影響までは分からない
- 構造と機能の関係は、今回のような一時点の比較だけでは十分に確かめられておらず、長期間の追跡調査が必要と考えられる
総括:脳の「機能」と「神経回路」への新たな知見
今回の研究では、瞑想は神経回路そのものよりも、脳の機能に、大きな変化をもたらすことが分かりました。
中でも、感情や体の状態を感じ取る機能に、熟練者と未経験者で違いがみられました。
ただし、これは領域の違いであり、「気づく力」そのものが実際に向上したことを証明するものではありません。
今回の結果は、瞑想によるものか、もともとの体質によるものなのかは判断できません。
そのため、誰もが瞑想をすれば同じ変化を得られるとは限らず、脳への効果を目的として瞑想を勧める根拠にもなりません。
それでも、長年続けてきた瞑想が、脳の機能にまで影響を与える可能性を示した今回の結果は、その仕組みを理解するための、新たな手がかりといえます。
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※本記事は、国際的な学術誌『Brain Structure and Function』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
論文情報
- 公開日:2022年5月6日
- 研究機関:国際共同研究(スペイン(Universitat Pompeu Fabra他) / ブラジル / ドイツ / オーストラリア)
- 掲載誌:Brain Structure and Function
- 論文:「 Meditation-induced effects on whole-brain structural and effective connectivity 」
資金提供
資金提供元:本研究は、EUのHuman Brain Project、スペインのCatalan Agency for Management of University and Research Grants(カタルーニャ大学・研究助成管理機関)ほか、複数の公的研究助成機関から資金提供を受けて行われました。
利益相反:著者らは利益相反がないことを申告しています。




