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夜間の交通音などの「環境騒音」は睡眠を妨げ、健康リスクを高めることが知られています。
ペンシルベニア大学が主導する国際共同研究では、耳栓が環境騒音による睡眠への悪影響のほぼすべてを軽減した一方で、寝室で流す「ピンクノイズ」を騒音対策として使っても、睡眠への悪影響を和らげるどころか、むしろ睡眠の質を悪化させる可能性があることが示されました。
今回の研究は、安価な騒音対策を探している人にとって、何が実際に効果的かを考える材料になる結果となりました。
また、就寝時にホワイトノイズやピンクノイズなどを利用している人にとっては、その使い方を見直すきっかけになることでしょう。
この記事を読んでわかること
- 環境騒音とピンクノイズは、異なる仕組みで睡眠を妨げている可能性がある
- ピンクノイズを対策として使うと、むしろ睡眠が悪化する場合がある
- 耳栓は、今回の研究で環境騒音への対策として有効だった
※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
用語解説
すべての周波数の音を均等な強さで含む持続音。「ザー」というテレビの砂嵐のような音。
ホワイトノイズと同じく幅広い周波数を含む持続音だが、低い音の成分がやや強く、高い音の成分が弱めに調整されている。ホワイトノイズよりも耳あたりが柔らかく感じられることが多い。
ホワイトノイズやピンクノイズのように、幅広い周波数の音を同時に含む音の総称。扇風機やエアコンの音、波音・雨音などの自然音も、性質としてはこれに含まれる。
眠っている間に眼球が素早く動く、比較的浅い眠りの段階。夢を見やすいとされ、記憶の整理や感情の調整に関わっているといわれている。
掲載誌:SLEEP
論文:「 Efficacy of pink noise and earplugs for mitigating the effects of intermittent environmental noise exposure on sleep 」
背景:未検証だった「ピンクノイズ」と「耳栓」の効果
眠るときに、スマートフォンやスピーカーで「睡眠用BGM」や環境音を流している方も多いのではないでしょうか。
実際、海外でYouTubeにて「white noise」と検索した際の上位5本の動画は、合計7億回超の再生数があり、Appleストアで「white noise」と検索した際の上位5件のアプリは、合計100万件超のレビューを獲得しています。
日本でも、YouTubeで「睡眠用BGM」などを検索したことがある人は少なくないでしょう。
一方で、周囲の交通音や物音が気になるとき、就寝時に「耳栓」を使って音を遮断した経験がある方もいるはずです。
耳栓は、騒音対策として最も手軽で安価な手段のひとつです。
世界保健機関(WHO)は、睡眠への悪影響を防ぐため、夜間の交通騒音レベルが40~45dB(日常生活ではほとんど気にならない程度の音量)を超えないよう推奨しており、これを超える環境では、何らかの対策が必要になる場面もあるでしょう。
しかし、こうした「音を流す」対策と「耳栓」のどちらが実際に効果的なのかを、厳密に検証した研究はこれまで多くありませんでした。
そこでペンシルベニア大学が主導する国際共同研究では、ピンクノイズと耳栓が、環境騒音による睡眠への悪影響を軽減できるかどうかを検証しました。
あわせて、ピンクノイズ単体が持つ「睡眠を促す性質」と「睡眠を妨げる性質」の両方についても調べています。
調査方法:「ピンクノイズ」と「耳栓」の効果検証
今回の研究は、以下のような条件で行われました。
対象・研究デザイン
- 健康な成人25人(平均年齢28.5歳 / 男性7人 / 21~50歳)
- 夜間に持続音を使った経験がない人に限定
- 7夜にわたり、異なる騒音条件下で睡眠検査(脳波などを記録するポリソムノグラフィ)を実施する実験室研究
- 各条件を経験する順番はランダム化
比較した6つの条件
| 条件 | 内容 | 平均音量 |
|---|---|---|
| 対照 | 騒音なし | 23.7dB |
| 環境騒音のみ | 交通音などを再生 | 43.2dB |
| ピンクノイズのみ | 持続音のみ再生 | 50.0dB |
| 環境騒音+ピンクノイズ(弱) | 両方を組み合わせ | 45.0dB |
| 環境騒音+ピンクノイズ(強) | 両方を組み合わせ | 50.9dB |
| 環境騒音+耳栓 | 交通音+耳栓装着 | 43.2dB |
※環境騒音は1晩93回再生され、音量は最大45~65dB(実際の空港周辺で観測される「比較的大きめの騒音レベル」を想定)。耳栓の平均的な減衰量は25.5dB。
測定方法
- 夜間:睡眠ポリグラフ検査(脳波・眼球運動などを記録し、眠りの深さや段階を客観的に判定)
- 朝:認知機能検査、心血管系の測定(血圧など)、聴力検査、アンケート(睡眠の質・気分・覚醒度についての自己申告)
結果:睡眠への影響
何も音のしない静かな夜と比べると、環境騒音は深い眠りの段階(N3)を減少させ、ピンクノイズはレム睡眠を減少させることが分かりました。
では、この2つを組み合わせるとどうなるのでしょうか。
実際には、単純に効果が足し合わされるわけではありませんでした。
環境騒音による睡眠の途切れや、深い眠りの減少にはわずかな改善がみられたものの、睡眠の構造全体としてはむしろ悪化していたのです。
一方、耳栓は環境騒音が睡眠に及ぼす影響のほぼすべてを軽減しました。
ただし、最も大きな騒音レベル(65dBA)では、その効果が低下し始めることも分かっています。
なお、朝の認知機能・心血管系の指標・聴力は、夜間の騒音による影響を受けていませんでした。
また、環境騒音やピンクノイズが流れた夜は、睡眠・覚醒度・気分についての自己申告による評価が悪化していました。
騒音が鳴った直後、体に何が起きているか
環境騒音が鳴ると、最初の1分ほどで目が覚める確率が急上昇します。
その後は徐々に下がっていき、2分後には静かな夜とほぼ変わらない状態に戻ります。
一方、深い眠り(N3)の確率は、騒音発生から1.5分ほど下がり続けた後、ゆっくりと回復していきます。
ただし、4分経っても静かな夜の水準までは戻りきりません。
さらに、ピンクノイズを組み合わせた場合は、レム睡眠の確率の落ち込みがより大きくなり、回復にも一段と時間がかかる傾向が見られました。
ピンクノイズを足すと、なぜ悪化するのか
環境騒音にピンクノイズを組み合わせた夜は、以下のような変化が確認されました。
- N3・レム睡眠の減少に加え、総睡眠時間や睡眠効率も低下
- 目が覚めている時間そのものが増加(環境騒音だけの夜にも、ピンクノイズだけの夜にも見られない現象)
- 騒音が鳴ってから2分経っても、目が覚めた状態が続きやすい
一方で、ピンクノイズには部分的な良い効果もありました。
環境騒音が鳴っている間の覚醒の頻度や、眠りの浅さを示す指標は、ピンクノイズの音量を上げるほど改善する傾向が見られています。
65dBを境に、耳栓の効果が崩れる
耳栓は、騒音の最大音量が55dBまでは静かな夜とほぼ差がありませんでした。
しかし65dBになると保護効果が崩れ、目が覚める確率や眠りの浅さを示す指標が上昇し、深い眠り(N3)に入る確率が下がりました。
ただし、これは今回の実験そのものの結果ではありません。
著者らが別の実地調査(航空機騒音に関する先行研究)を参照したところ、記録された騒音のうち55dBを超えるものは、全体の6.7%程度にとどまっていました。
つまり、実際の生活場面の多くは55dB以下であり、大多数の場面では耳栓の効果は保たれると考えられます。
耳栓を着けた夜の装着感を尋ねたアンケートでは、次のような回答が得られています。
- 快適:33.3%
- やや快適:28.6%
- どちらでもない:28.6%
- やや不快:9.5%(非常に不快と答えた人はいなかった)
耳栓なしの場合と比べた睡眠の質の変化については、42.9%が「非常に良くなった」、別の42.9%が「少し良くなった」と回答しています。
ピンクノイズ単体でも、レム睡眠は減っていた
環境騒音がない状態でピンクノイズだけを流した夜も、静かな夜と比べてレム睡眠が平均18.6分減少していました。
ただしこの場合、睡眠の分断や深さ、主観的な睡眠・気分の評価には、静かな夜との差は見られませんでした。
考察:研究結果の解釈と限界点
環境騒音とピンクノイズは、睡眠を妨げる仕組みそのものが違うと考えられています。
断続的な環境騒音は、自律神経系や脳の広い範囲にわたる覚醒反応を引き起こし、最終的に深い眠り(N3)を減らすとみられています。
一方でピンクノイズのような持続的な音は、レム睡眠の開始・維持に関わる脳の特定の部位を直接抑制していると考えられています。
この抑制には、耳から脳に伝わる神経の働きが関係している可能性が仮説として挙げられていますが、詳しい仕組みを明らかにするには、さらなる研究が必要とされています。
このように、両者の影響の仕組みがそもそも異なるため、ピンクノイズで環境騒音の悪影響を緩和しようとすること自体が、理にかなっていない可能性があると指摘されています。
実際に今回の結果でも、ピンクノイズを組み合わせることでむしろ睡眠が悪化しました。
この結果から言えること
- 環境騒音は深い眠り(N3)を減少させ、ピンクノイズはレム睡眠を減少させる可能性が高い
- 耳栓は、少なくとも今回検証された騒音レベルの範囲では、環境騒音による睡眠への悪影響を軽減する有効な手段である
- ピンクノイズを環境騒音への対策として単純に組み合わせることは、睡眠の質を高めるどころか、悪化させる可能性がある
この結果だけでは言えないこと
この研究には、いくつかの限界があります。
- 持続音を使った経験がない、比較的小規模な参加者集団を対象とした、7夜という短期間の実験であり、より長期間使用した場合にどうなるかは分からない
- 対象が21歳から50歳の若く健康な成人に限られており、より若い人、高齢の人、あるいは健康上の問題を抱える人に同じ結果が当てはまるかは分からない
- 今回検証されたのはピンクノイズのみであり、ホワイトノイズやその他の持続音、自然音については、この結果がそのまま当てはまるとは限らない
- 使用された騒音の種類も交通騒音や警報音など限られており、他の騒音源や、より小さな音量の騒音にも同じ結果が当てはまるとは限らない
なお、レム睡眠は特に発達初期の神経発達にとって重要とされており、生まれたばかりの子どもでは睡眠の約半分をレム睡眠が占め、3歳前後にかけて少しずつ減っていきます。
体が慣れないまま持続音を使い続けた場合、記憶や脳の発達、感情の処理に悪影響を及ぼす可能性があり、特に新生児や幼児では懸念されると考察されています。
ただし、乳幼児における直接的な影響を示す証拠は現時点では限られており、こうした知見がより若い年齢層や長期的な使用にどこまで当てはまるかは明確でないとされています。
そのため、確認のための研究が必要だと位置づけられています。
総括:睡眠対策への新たな知見
今回の実験によって、環境騒音・ピンクノイズ・耳栓、それぞれの効果の違いが明らかになりました。
寝室で使う持続音(ホワイトノイズ・ピンクノイズなど)は、多くの人に使われている一方で、その効果を厳密に検証した研究はこれまで多くありませんでした。
また、耳栓についても、睡眠を促す効果があるかどうかは、研究結果が一貫していませんでした。
今回の研究は、この2つの対策を同じ条件下で比較したものです。
その結果、断続的な環境騒音と持続的なピンクノイズとでは、そもそも睡眠を妨げる仕組みが根本的に異なることが示されました。
ピンクノイズを環境騒音への対策として追加しても、睡眠の途切れや深い眠りの減少はわずかに和らいだものの、全体としては有効な対策にはならず、むしろ睡眠の構造を悪化させる結果となりました。
一方、耳栓は同じ条件下で、明らかに優れた効果を示しています。
ここから分かるのは、「持続音を流せば睡眠が改善する」というこれまでの考え方が、少なくとも今回の条件下では成り立たなかったということです。
断続的な騒音と持続的な音は、それぞれ別の仕組みで睡眠に影響しているため、一つの対策で両方をまとめて解決しようとすること自体に無理があったと考えられます。広帯域音は、扇風機やエアコンといった身近な家電からも発生しており、日常的に触れる機会が多いものです。
だからこそ、今回観察されたレム睡眠の減少は軽視できません。
レム睡眠は記憶の形成や脳の発達、感情の調整に重要な役割を果たすとされており、この点を踏まえると、新生児や幼児における広帯域音の一般的な使用は控えることが妥当と考えられています。
ただしこれは、さらなる確認研究を前提とした見解であり、断定的な結論ではありません。
今後は、どのような音の種類・音量であれば、実際に睡眠への悪影響を減らせるのかを見極める研究が必要とされています。
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※本記事は、国際的な学術誌『SLEEP』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
論文情報
- 公開日:2026年2月2日
- 研究機関:ペンシルベニア大学が主導する国際共同研究(スウェーデン・ヨーテボリ大学、米国・ヴァンダービルト大学、カナダ・マニトバ大学、ドイツ航空宇宙センターとの共同)
- 掲載誌:SLEEP
- 論文:「 Efficacy of pink noise and earplugs for mitigating the effects of intermittent environmental noise exposure on sleep 」
資金提供
資金提供元:本研究は、米国連邦航空局(FAA)から資金提供を受けて行われました。なお、共同著者の一人は、本研究で用いられた睡眠測定技術(ORP)の開発者であり、この技術に関する特許を保有しています。





