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傷を残さず治すことは、皮膚のけがにおける長年の課題です。
その候補として関心を集めているのがローズマリーです。
SNSでも人気が高い植物ですが、その効果を裏付ける科学的な検証はこれまで十分ではありませんでした。
今回のマウスを使った研究では、ローズマリー抽出物とその主成分であるカルノシン酸が、瘢痕を残さない治癒を促す可能性が示されました。
鍵となっていたのは、皮膚の感覚神経に存在するTRPA1という受容体です。
この記事を読んでわかること
- ローズマリー抽出物とカルノシン酸が、マウスの傷を瘢痕なく治す可能性がある
- 効果に関わっていたのは、痛みや刺激を感知する受容体「TRPA1」の活性化だった
- 効果は塗布した部位に限られ、全身には及ばない場合がある
※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
用語解説
痛みや刺激を感知する神経の受容体の一種。ローズマリーによる傷の治り方の変化に、中心的な役割で関わっていることが今回の研究でわかった
ローズマリーの葉に多く含まれる成分の一つ。今回の研究で、傷の治りを促す働きの中心的な役割を担う有効成分として同定された
カルノシン酸が酸化してできる物質。ローズマリー抽出物には、カルノシン酸に次いで多く含まれている
本来は免疫を活性化する目的で使われる外用薬。TRPA1を活性化する作用があることが、過去の研究で示されている
掲載誌:JCI Insight
論文:「 Carnosic acid in topical rosemary extract enhances skin repair via TRPA1 activation 」
背景:人気のローズマリーに欠けていた科学的根拠
米国では年間1億人が皮膚の傷を負うとされ、その多くは瘢痕を残して治りますが、部位によっては機能面の支障につながることもあります。
一方、毛包や皮脂腺、軟骨などの構造まで元通りに近い形で修復される「組織再生」という治り方もあります。
瘢痕を防いだり組織再生を促したりする方法は、いまだ確立されていない大きな医療課題です。
こうした治癒の違いを調べる際によく使われるのが、マウスの耳に穴を開けて治り方を観察する方法です。
通常のマウスではこの穴は瘢痕を残したまま閉じず、ヒトのピアスの穴のような状態になりますが、一部の系統では穴が完全に閉じ、組織構造も元に近い状態まで回復することが知られています。
研究チームは以前、痛みや刺激を感知する神経の受容体TRPA1を薬剤で活性化することで、この瘢痕のない治癒を人為的に引き起こせることを報告しています。
一方、ハーブや植物は昔から治療に使われてきた歴史があり、世界で処方される薬剤の約25%は植物由来とされています。
中でもローズマリーは、「傷跡を薄くする」「育毛を促す」「肌を整える」といった効果を紹介する動画がSNSで数多く投稿され、2000万回以上再生されたものもあるほど人気です。
ヘルスケア製品としての市場規模は2023年時点で約9億8080万ドルとされ、2026年には約11億6000万ドルまで拡大しているとの推計もあり、日本でもスキンケアや育毛関連製品への関心が高まっている傾向がみられます。
しかし、これほど支持されている一方で、効果を裏付ける厳密な科学的検証はこれまで十分ではありませんでした。
調査方法:「ローズマリークリーム」による検証実験
研究は、大きく分けて5つの実験で構成されています。
対象には、野生型マウス(C57BL/6J)と、感覚神経だけでTRPA1を持たないよう遺伝子操作したマウス(nTRPA1-KO)が用いられ、いずれも生後6~8週でした。
雄と雌の両方で検討され、同様の結果が得られています。
耳の創傷モデルでの検証
マウスの耳に2mmの穴をあけ、クリームを1か月間毎日塗布し、傷の閉じ方を比較しました。
比較は目的ごとに3種類行われています。
比較1(ローズマリーの効果)
| グループ | クリームの内容 | 頭数 |
|---|---|---|
| 基剤クリーム | 基剤のみ | 7匹 |
| ローズマリー | ローズマリー抽出物(12mg/mL) | 12匹 |
比較2(有効成分カルノシン酸の効果)
| グループ | クリームの内容 | 頭数 |
|---|---|---|
| 基剤クリーム | 基剤のみ | 12匹 |
| ローズマリー | ローズマリー抽出物(12mg/mL) | 12匹 |
| カルノシン酸 | カルノシン酸(5mg/mL) | 14匹 |
比較3(コリアンダーとの比較・陰性対照)
| グループ | クリームの内容 | 頭数 |
|---|---|---|
| 基剤クリーム | 基剤のみ | 6匹 |
| コリアンダー | コリアンダー抽出物(12mg/mL) | 7匹 |
背部創傷モデルでの検証
マウスの背部皮膚に6mmの円形創傷を作り、皮膚が縮まないよう固定具で囲んだ状態で、基剤クリーム(5匹)またはローズマリークリーム(4匹)を4週間毎日塗布しました。
全身性の効果を調べる実験
直接処置していない部位にも効果が及ぶかを確認するため、2つの方法で検証しました。
1つは、大きな切除創が治る過程で新しい毛包が再生する現象(創傷誘導性毛包新生)を利用したもので、耳にクリームを塗布したうえで、離れた背部の創傷での毛包再生を確認しました。
もう1つは、剃毛した背部にクリームを塗布したうえで、離れた耳の閉鎖を確認しました。
TRPA1受容体活性化の検証
TRPA1などの受容体を過剰発現させたヒト由来培養細胞に、ローズマリーを含む複数の植物抽出物を加えました。
受容体が活性化すると細胞内にカルシウムが流入し、それに伴って蛍光の強さが変化します。
この蛍光の変化を測定することで、活性化の程度を比較しました。
神経特異的TRPA1欠損マウスでの検証
感覚神経だけでTRPA1を持たないマウス(nTRPA1-KO)を作製し、野生型マウスと比較しました。
まず、nTRPA1-KOマウスが意図した通りに作製できているかを確認するため、TRPA1を活性化することが知られるIMQという薬剤を使い、野生型マウスとの反応の違いを比較しました。
| マウス | 処置 | 頭数 |
|---|---|---|
| 野生型 | IMQクリーム | 6匹 |
| nTRPA1-KO | 基剤クリーム | 3匹 |
| nTRPA1-KO | IMQクリーム | 5匹 |
| 野生型 | ローズマリークリーム | 8匹 |
| nTRPA1-KO | ローズマリークリーム | 12匹 |
測定方法
- 耳孔や創傷の閉鎖の程度(サイズの変化/再上皮化の速さ)を実体顕微鏡で測定
- 組織学的な組織構造の回復(毛包・皮脂腺・皮下脂肪・軟骨)を染色標本で確認
- 線維化の程度は、コラーゲンの蓄積を染め出す特殊な染色によって測定
- TRPA1関連遺伝子の発現量は、創傷から1週間後の組織を採取し、遺伝子の働き具合を網羅的に調べる方法と、特定の遺伝子に絞って測定する方法を組み合わせて確認
統計解析
時間の経過に伴うデータの比較には、時間と処置という2つの要因を同時に考慮できる統計的な手法を用いました。
それ以外の、2つのグループ間の単純な比較には、別の統計的な検定手法を用い、いずれの場合も、一定の基準を満たした差を明確な差として扱いました。
結果:創傷治癒への効果
ローズマリークリームによる傷の治り方
- 耳孔の閉鎖:ローズマリークリームは基剤クリームより小さく閉鎖
- 組織構造(毛包・皮脂腺・皮下脂肪):より正常な状態まで回復
- 軟骨:間隔が短縮し、再生を示唆
- 背部創傷の再上皮化:ローズマリークリームの方が速い
効果は耳に限らず、皮膚のほかの部位にも及ぶ可能性がある。
有効成分・カルノシン酸の効果
ローズマリー抽出物の主成分は、カルノシン酸とその酸化物カルノソールでした。
- 耳孔の閉鎖:カルノシン酸クリームで平均約90%、基剤クリームで約35%
- 組織・軟骨:回復が確認された
- 線維化の程度:ローズマリー・カルノシン酸クリームのいずれも明確に少ない
- 効果の強さ:ローズマリークリームとほぼ同程度
カルノシン酸が、ローズマリーの中でも創傷治癒を促進するカギとなる成分だと考えられている。
TRPA1受容体の活性化
TRPA1を活性化した植物抽出物:ミント / オレガノ / フェンネルシード / ナツメグ / タイム / オールスパイス / ローズマリー
- ローズマリー・タイムは特異的に活性化し、ローズマリーは別の受容体もわずかに活性化させた
- ローズマリーの活性化の強さは、標準的な陽性対照薬剤の約40%程度だった
- コリアンダー抽出物はTRPA1を活性化せず、クリームでも傷の閉じ方に変化はなかった
ローズマリーの効果には、TRPA1の活性化が関わっているとみられる。
全身への影響
傷から離れた部位にクリームを塗布した場合の影響も確認されましたが、毛包の再生量、傷の閉じ方のいずれにも、目立った変化は見られませんでした。
ローズマリークリームの効果は局所的で、全身には及ばないとみられます。
遺伝子レベルでの変化
- 免疫反応に関わる複数の遺伝子:発現が上昇
- 免疫細胞の活性化に関わる遺伝子群:発現が上昇
- 線維化に関わる遺伝子:一方は増加、もう一方は減少
- その他の関連遺伝子:目立った変化はなかった
神経のTRPA1と効果の関係
感覚神経だけでTRPA1を持たないマウスを使った実験も行われました。
- IMQ処置:通常のマウスで約92%閉鎖、TRPA1を持たないマウスで約45%にとどまる
- 基剤クリームのみの場合:閉鎖は同じく約45%で、IMQの有無による差なし
- ローズマリークリーム処置:TRPA1を持たないマウスは、通常のマウスに比べて穴が閉じきらず大きく残り、再生が妨げられる
神経のTRPA1は、IMQ・ローズマリーいずれの効果にも欠かせないとみられる。
考察:研究結果の解釈と限界点
この結果から言えること
- ローズマリー以外にも、オレガノ・タイム・ミント・フェンネル・ナツメグ・オールスパイスがTRPA1を活性化する
- ローズマリーがわずかに活性化していた別の受容体は、これまでの報告で創傷治癒との関連が指摘されておらず、今回の効果への影響要因ではないと考えられる
- 全身への効果が見られなかった理由について、著者らは今回使用した濃度が影響した可能性があると考えている
- ローズマリー抽出物やカルノシン酸は、局所的な組織再生を促す作動薬として適している可能性がある
- 遺伝子レベルでは一見矛盾した変化が見られたが、全体としては組織再生を促す経路が優勢と考えられ、過去の研究とも一致する
この結果だけでは言えないこと
- ミント・フェンネル・ナツメグ・オールスパイスは、クリームに配合できる可能性があるとされているが、有効成分は未特定
- カルノシン酸がカルノソールへ変化することが、効果に必要かどうかは不明
- 追跡期間中の食事の遵守は自己申告に基づいており、実際より良く見えている可能性がある
- 局所・全身それぞれに適した濃度はまだ明らかになっていない
- ヒトの皮膚でも同様の効果が得られるかはまだ推測の段階で、免疫細胞を介した仕組みも確認には至っていない
総括:ローズマリーが示す新たな可能性
今回の研究は、SNSなどで語られてきたローズマリーの効果に、動物実験による科学的な裏付けを与えるものでした。
これまで漠然とした人気にとどまっていたローズマリーですが、傷の治り方を変える具体的な成分としてカルノシン酸が特定され、その効果に「TRPA1」という受容体の活性化が関わっていることも明らかになったことで、検証の土台ができたといえます。
著者らは、ローズマリーが入手しやすく低コストであることも踏まえ、今後はヒトを対象とした臨床試験によって、この効果を確かめていく必要があると指摘しています。
ただし、現状ではあくまで実験段階のデータであり、市販のローズマリー精油などをそのまま人間の傷口に塗ると、肌荒れや炎症などの深刻なトラブルを引き起こすリスクがあるため厳禁です。
しかし、身近な植物の効果を科学的に検証する道筋が見えてきた点は、今回の研究の大きな意義といえるでしょう。
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※本記事は、国際的な学術誌『JCI Insight』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
論文情報
- 公開日:2025年10月23日
- 研究機関:ペンシルベニア大学 / ユタ大学 / 退役軍人省医療センター
- 掲載誌:JCI Insight
- 論文:「 Carnosic acid in topical rosemary extract enhances skin repair via TRPA1 activation 」
資金提供
資金提供元:本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)や米国退役軍人省(VA)からの助成のほか、複数の財団からの支援を受けて行われました。
利益相反:著者らは利益相反がないことを申告しています。





