諦めた問題の答えは、眠っている間に見つかるのか? 夢を誘導した睡眠実験

※この記事は 約8分 で読めます。

元素の周期表は、ある科学者が見た夢の中で構成が閃いたことで生まれたと言われています。
夢が新しい発想をもたらすという話は昔からありますが、これを裏付ける科学的な証拠は乏しく、多くは逸話にとどまってきました。

今回、この関係を実際に検証するため、レム睡眠中に特定の音を聞かせて夢の内容を誘導する実験が行われました。
その結果、パズルが夢に取り込まれた場合、翌朝の正答率が上がる傾向があることが確認されました。

  • 眠っている間に音を聞かせるだけで、対応するパズルの夢を見やすくなった
  • パズルの夢を見た人は、見なかった人より正答率が高い傾向だった
  • 一方で、音の効果が出たのは、実際に夢へ影響が及んだ人だけだった

※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。

用語解説

夢を見ながら「これは夢だ」と自覚している状態のことです。自覚した状態のまま、夢の内容に意図的に働きかけられる場合があります。

睡眠中に、特定の記憶と結びつけた音などの手がかりを聞かせることで、その記憶を選択的に呼び起こす手法です。今回の実験では、未解決のパズルとその手がかりとなる音を結びつけ、眠っている間に音を聞かせることでパズルについての夢を誘発しようとしました。

実験中、参加者が眠ったまま研究チームに合図を送るために使った方法です。LRLR信号は素早い左右の眼球運動、スニッフィング信号は素早く息を吸って吐く動作で、それぞれ「今、明晰夢である」「音に気づいて取り組んでいる」ことを伝えるために使われました。

ビートルズの名曲「イエスタデイ」や小説「フランケンシュタイン」の名場面は、いずれも夢の中での閃きから生まれたと言われています。
こうした逸話は特別な例ではなく、夢が創造的な洞察の源になりうることは、歴史を通じた逸話や調査研究によっても示唆されてきました。

実際、夢をよく思い出す人ほど創造的な関心を持つ傾向があるという報告もあります。
このつながりに着目し、就寝前にあるテーマについて意図的に夢を見ようとすることで、個人的な問題の解決策を得ようとする試みも行われてきました。
同様に、頻繁に明晰夢を見る人たちは、現実の問題解決や創造的なひらめきのために、明晰夢を役立てていると報告しています。

しかし、夢の内容を思い通りに操作することは難しく、夢を見ることと洞察の間に因果関係があるという証拠は、これまで乏しいままでした。
これについては解釈の域を出ませんが、意欲の高さや、それ以前の睡眠段階での無意識的な記憶の再生といった別の要因が、問題についての夢とその後の洞察の両方を引き起こしている可能性があります。

さらに、入眠時の夢は創造性が高まる「スイートスポット」として知られているため、就寝前に働きかける形の従来の研究では、その後の睡眠段階で夢を見ることそのものが持つ影響を切り分けることができませんでした。

そこで研究チームは、①音刺激が明晰・非明晰いずれの夢でもパズルの夢を生じさせるか。②特に明晰夢の中でパズルの夢を見ることで、その後の正答率を高めるか。という2つの予測を検証することにしました。

対象:明晰夢を頻繁に見る20名(女性14名 / 男性5名 / ノンバイナリー1名 / 平均24.3歳)

調査手順

  1. 参加者はまず複数のパズルに挑戦し、1晩に4問が未解決のまま残るまで続け、各パズルには固有の音を割り当てた。
  2. 脳波などを測定しながら眠り、午前4時に一度起こして明晰夢を促す訓練を行った。
  3. 残った未解決パズルの半数をランダムに選び、その後のレム睡眠中に対応する音を聞かせてパズルについての夢を誘発しようと試みた。(音に気づいたりパズルに取り組んだりした場合は、夢の中で決められた合図を送るように指示)
  4. 参加者が正答したかどうかは、翌朝(4分間)と、約10日後のフォローアップ通話(3分間 / 音刺激なし)で確認した。

研究期間中に集まった夢の報告は合計71件(1晩あたり平均2.02回)
20名中15名が、少なくとも1つの未解決パズルに関連する夢を報告し、参加者は平均して自分の未解決パズルの26%について夢を見ていた。

音刺激は、対応するパズルの夢を見る頻度を高めた

  • 対応する音を聞かせたパズルは、聞かせなかったパズルより夢に取り込まれやすかった
  • 音刺激と関連したパズルのうち、非明晰夢では7.8%、明晰夢では24.6%が夢に取り込まれた

実際に、ある参加者はLRLR信号(眼球運動の合図)で明晰であることを示した直後、未解決パズルの一つのタイトルが読み上げられると、スニッフィング信号(合図の呼吸)でそれに気づき取り組んでいることを伝えた。
覚醒後、この参加者は友人の家族が登場する夢の中でパズルに関連する場面を報告している。
なお、著者らはこの夢が実際に役立ったとは言い切れないと述べており、この参加者はパズルを最終的に解けなかった。

夢に取り込まれたパズルほど、翌朝の正答率が上がる傾向だった

  • パズルが夢に取り込まれていたかどうかは、翌朝の正答を予測した
  • 音を聞いたという感覚的な取り込みだけでは、正答は予測されなかった
  • 明晰な状態で取り込まれたパズル(9問)の正答率:11%(1問)
  • 非明晰な状態で取り込まれたパズル(13問)の正答率;46%(6問)
  • 覚えていなかったがリアルタイムの合図があったパズル(6問)の正答率:67%(4問)

明晰夢よりも非明晰夢のほうが正答率は高く、覚えていなくてもリアルタイムで反応していたパズルが最も高い正答率で解かれていた。

夢への影響を受けやすい参加者では、音刺激の効果がはっきり表れた

  • 音刺激の影響を受けやすかった参加者:音刺激と関連したパズルのほうが明確に多く正答された
  • 音刺激の影響を受けにくかった参加者;音刺激と関連したパズルとそうでないパズルの正答率に差はなかった

つまり、音刺激による正答率の押し上げは、音刺激が実際に夢へ影響していた参加者に限られていたと言える。

自宅でも同様の傾向が見られた

  • 自宅の夢134件のうち16件が未解決パズルに言及していた
  • 実験室後に残った未解決パズルの一部が、自宅の夢にも取り込まれていた

件数が少なく統計的な検証はできなかったが、傾向は実験室部分と同じ方向だった。

この結果から言えること

  • 音刺激は、レム睡眠中の夢の内容を、特定の未解決課題へと偏らせられる
  • 夢にパズルが取り込まれた場合、翌朝の正答率が上がる傾向がある
  • 明晰夢よりも非明晰夢に取り込まれたパズルのほうが、正答率は高い傾向にあった
  • 覚えていなかったがリアルタイムで音刺激に反応していたパズルが、最も高い正答率で解かれていた

この結果だけでは言えないこと

  • 明晰夢についての結果は確定的ではない。報告数が少なく厳密な検証ができておらず、非明晰夢のほうが良かった理由や、明晰夢が不利に働いた可能性のある理由は、いずれも確認されていない
  • なぜ一部の参加者にしか効果が及ばなかったのかは分かっておらず、参加者が明晰夢を頻繁に見る人に偏っていたため、より一般的な人にも同じ結果が当てはまるかは不明
  • 効果が夢を見ることそのものによるものか、就寝前に伝えた「取り組み続けて」という指示によるものかは切り分けられていない
  • レム睡眠中に夢を見ることが、他の睡眠段階や起きて考える場合と比べて優れているかは、この研究だけでは判断できない
  • 今回の知見は「一つの正解を探す」タイプの課題に関するもので、自由な発想を広げるタイプの創造性への効果は確認されていない
  • 参加者20名という規模は検出力が不足していた可能性が高く、追試による確認が必要

問題を一度寝かせることで、創造的な洞察に恵まれやすくなることはよく知られています。
夢は長らく創造性を促すと考えられてきましたが、これまでの研究手法には限界が多く、夢の機能について確かな結論を出すことは難しいままでした。

今回の研究では、レム睡眠中にターゲット記憶再活性化(TMR)を用いることで、夢の内容を未解決のパズルへと偏らせられることや、パズルが夢に取り込まれた場合には翌朝に解かれる可能性が高くなることを示しました。

この実験的な手法は、夢の有用性を示す今後の研究にも、同様に役立つ可能性があります。
夢が誰にでも同じように答えを運んでくれるとは限りませんが、眠っている間の体験が、目覚めた後の思考と決して無縁ではないことを、今回の研究は改めて示しています。

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※本記事は、国際的な学術誌『Neuroscience of Consciousness』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。

論文情報

資金提供

資金提供元:本研究は、米国国立衛生研究所(NIH) / 全米科学財団(NSF) / Mind Science Foundationから資金提供を受けて行われました。
利益相反:論文中に利益相反の申告はないと明記されています。

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豪華客船の専属鍼灸師として、40ヶ国160都市以上を巡り、世界中のクライアントを治療してきた経験を持つ治療家。
24歳で全国グループの鍼灸整骨院にて責任者・エリア統括を歴任し、27歳で海外へ。
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