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朝起きたとき、見ていた夢の内容があまりに現実離れしていて、驚いたことはないでしょうか。
今回の研究では、200人以上を対象に、「個人の特性」や「経験」が夢に与える影響が調べられました。
その結果、夢は実際に経験したことよりも非現実的な内容になりやすく、感情もより否定的な傾向にあることが分かりました。
さらに、その人の性格や物事の捉え方、社会的な出来事によっても、夢の内容が変わっていたことが明らかになりました。
この記事を読んでわかること
- 夢は実際に経験したことよりも、非現実的な内容になりやすい傾向があった
- 性格や物事の捉え方によって、夢の内容が変わる場合がある
- 生活に影響するような社会的な出来事も、夢の内容に影響していた
※本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。
用語解説
手首に装着して、体の動きから睡眠や覚醒のパターンを記録する機器です。
心理学において、今取り組んでいる作業や目の前の出来事から意識が逸れて、自発的に別の考えが浮かんでは移り変わっていく現象を指す言葉です。ぼんやりしているときや単調な作業をしているときに起こりやすいとされ、意図して何かを考える思考とは区別されます。
大量の文章データを学習し、人間の言葉を理解したり、文章を生成したりできるAIの一種です。(代表例:ChatGPT / Geminiなど)本研究では、LLaMA3、ChatGPT-4、ChatGPT-4 Turboという3つの大規模言語モデルが使われました。
図形や物の形、配置といった視覚的な情報と、その空間的な位置関係を組み合わせて覚えておく力のことです。
背景:未検証だった「個人の特性」や「経験」が夢に与える影響
夢は誰もが経験する現象でありながら、その内容は人によって大きく異なることが知られています。
睡眠中の脳は、日常の風景から驚くような出来事、時には恐ろしい場面まで、さまざまな夢を見せており、それまでの経験をもとにした物語になると考えられています。
これまでの研究では、夢は日中に出会った人物や場所、経験した出来事が、形を変えて現れることや、「記憶の整理」「感情の調整」といった役割を担っている可能性が指摘されてきました。
ただし、夢は日中の出来事をそのまま映し出すのではなく、比喩的・連想的な形に変換して取り込む傾向があるため、共通するテーマが見られる一方で、個人差の大きい体験だと考えられてきました。
しかし、こうした個人差の背景にある要因や、性格や物事の捉え方といった特性が夢の内容に及ぼす影響は、これまではっきりと分かっていませんでした。
従来の研究の多くは少人数を対象にした調査にとどまっており、社会全体に影響を与える出来事が夢の内容に及ぼす長期的な影響についても、十分な検証がされてきませんでした。
そこで研究チームは、200人以上を対象に、夢と日中の体験を数年にわたって記録した大規模なデータを収集し、夢と覚醒時の体験の違い、個人特性が夢の内容に与える影響、そして社会的な出来事が夢に及ぼす長期的な影響を調べました。
調査方法:「長期記録」と「短期記録」による検証
本研究では、以下の2つのグループに分けられ、3つの検証が行われました。
| グループ | 日付 | 期間 |
|---|---|---|
| グループ1 | 2020年3月~2024年3月 | 4年間 |
| グループ2 | 2020年4月28日~5月11日 | 2週間 |
| 検証 | 内容 | 使用グループ |
|---|---|---|
| 検証A | 夢の内容と日中の体験の違い | グループ1 |
| 検証B | コロナ禍で外出が制限されていた時期の夢への影響 | グループ1 / グループ2 |
| 検証C | 2020年から2024年にかけての移り変わり | グループ1 |
グループ1 (4年間の長期調査)
- 参加者:207名(女性117名 / 男性90名)
- 対象:イタリア語を母国語とする成人 / 年齢18~70歳(平均年齢34.9歳)
- 条件:6~8時間の規則的な睡眠 / 睡眠関連や神経学的または精神医学的疾患の診断がないこと
- 除外:睡眠に影響する薬剤の使用 / 直近6ヶ月以内のアルコールや薬物乱用歴 / 妊娠中または妊娠を計画中 / 授乳中の女性
- 記録期間:1人あたり15日間
- 得られた報告数:夢の報告1687件 / 日中の体験の報告1679件
グループ1では、アクチグラフとボイスレコーダーを用いて、以下の2つのタイミングで、参加者がデータを記録されました。
- 目覚め直後:夢の内容
- 日中のランダムな時間:直前の体験
夢を見ていた感覚はあるものの内容を思い出せない場合も、その旨を報告するよう求められました。
これに加えて、参加者自身の性格や能力についても、以下の方法を用いて本人によって評価されました。
- 質問用紙:夢に対する考え方、睡眠の質、マインドワンダリングなど(計6項目)
- 検査:視空間記憶、発話量など(計4項目)
さらに、参加者が記録した夢や日中の体験の文章については、以下の分析が行われました。
- 3種類のAI(大規模言語モデル)による特徴の評価:非現実性、感情、覚醒度など(16種類)
- 統計的な手法による言葉の自動分類:身の回りの空間、社会の仕組み、心の状態や個人的な反応など(32グループ)
グループ2 (2週間の短期調査)
グループ2は、コロナ禍で外出が制限されていた期間に集められたデータです。
- 参加者:80名(女性60名 / 男性20名)
- 対象:イタリア国内在住の成人 / 年齢19~41歳(平均年齢25.6歳)
- 条件:6~8時間の規則的な睡眠 / 睡眠関連や神経学的または精神医学的疾患の診断がないこと
- 除外:睡眠に影響する薬剤の使用
- 外出条件:前半(4月28日~5月4日)は厳格な外出制限期 / 後半(5月5日~11日)は制限緩和期
- 得られた報告数:351件
グループ2では、夢日記を用いて、目覚めた際の夢の内容が記録されました。
参加者自身についての評価や、AIによる分析は行われていません。
結果:夢の特徴と変化
検証A:夢の内容と日中の体験の違い
▶︎夢の内容の特徴
- 非現実性:今回調べたすべての項目の中で、夢の内容と覚醒時の体験の差が最も大きい項目だった
- 視覚的な要素:夢の内容のほうが、明確に多く登場していた
- 社会的な交流:夢の内容のほうが、明確に多く見られた
- 自由の制限:夢の内容のほうが、明確に多く描かれていた
- 覚醒度:夢の内容のほうが、高い傾向があった
- 感情:夢の内容のほうが、より否定的な傾向があった
夢の内容では場面が唐突に切り替わったり、状況が不自然につながったりする展開が多く、目が覚めている間の体験とは一線を画す内容になりやすいことがうかがえます。
▶︎覚醒時の体験の特徴
- 思考や内省の描写:覚醒時の体験のほうが、明確に多く見られた
- 主体性:覚醒時の体験のほうが、明確に高い傾向があった
- 時間の意識:覚醒時の体験のほうが、高い傾向があった
- 身体感覚:覚醒時の体験のほうが、高い傾向があった
覚醒時の体験は、何かを考えたり判断したりしながら、自分の意思で動いているという実感を伴う場面が中心でした。
一方で、夢の内容では、こうした「自分の意思で行動している」という感覚は薄れる傾向にありました。
▶︎話題の違い
夢の内容に出てくる言葉を分類したところ、以下のような話題がそれぞれの体験に多く登場していました。
- 夢の内容:動物、自然、場所、物、人や物の外見、仕事、社会に関する話題
- 覚醒時の体験:個人の内面や、コミュニティに関する話題
なお、報告に含まれる言葉は、話題ごとに以下の3つのグループに分類できました。
- 色や建物、自然など、身の回りの空間に関するグループ
- 教育や医療、文化など、社会の仕組みに関するグループ
- 恐れや想像など、心の状態や個人的な反応に関するグループ
▶︎個人特性との関係
- 夢に意味を求めている人ほど、夢の内容の非現実性 / 視覚的な要素 / 覚醒度が高い傾向があった
- 睡眠の質を低く感じている人ほど、夢の内容の非現実性 / 物や外見に関する話題が多い傾向があった
- 目の前の作業と関係のない考えが浮かびやすい人ほど、夢の内容の非現実性が高く、場面の切り替わりも頻繁に起こる傾向があった
- 視空間記憶が高い人ほど、夢の内容の中で物についての言及が多い傾向があった
- 若い参加者ほど、覚醒時の体験と比べて、夢の内容の中で仕事に関する話題を多く報告していた
- 夜型の人は、夢の内容よりも覚醒時の体験で、コミュニケーションに関する話題により強く焦点を当てる傾向があった
検証B:コロナ禍で外出が制限されていた時期の夢への影響
以下の話題は、ロックダウン中の方が、明確に多くみられました。
- 行動が制限される場面
- 社会的な交流
- 夢の中の場所や状況の描写
- 身体に関する描写
- 物語的な展開
- 仕事に関する話題
検証C:2020年から2024年にかけての移り変わり
- 2020年から2024年にかけて、夢の内容の非現実性は時間の経過とともに低下していった
- 感情は時間とともに、よりポジティブな傾向に近づいていった
- 覚醒度、行動が制限される場面、社会に関する話題への言及は、時間とともに減少していった
考察:研究結果の解釈と限界点
この結果から言えること
- 夢は「物語のような構成」があった
- 夢と覚醒時の報告に明確な違いが見られた
- 性格や日頃の物事の捉え方といった特徴は、夢の内容を形作る一因になっていた
- 外出制限という大きな出来事は、夢の内容にも表れていた
- 夢の非現実性や感情の強さは、時間の経過とともに徐々に落ち着いていった
この結果だけでは言えないこと
- 夢の内容とコロナ禍や時間の経過との関連は同時に起きていた関係にとどまり、外出制限そのものが原因だったとは言い切れない
- 参加者の社会的な背景や出身地域についての情報は集められておらず、こうした要因が結果に影響した可能性は否定できない
- 分析計画は事前に登録されておらず、都合の良い結果だけが強調された可能性は排除できない
- 今回の調査対象はイタリア語を話す人々に限られており、他の言語や文化圏でも同じ傾向になるとは限らない
- 参加者は病気の診断がない健康な成人に限られており、睡眠に何らかの問題を抱える人にも同じ結果が当てはまるとは限らない
総括:夢の「現実離れ」を形作る3つの側面
今回の研究では、夢は日中の体験と比べて、非現実性・視覚的な要素・自由の制限・感情の否定的な傾向という複数の指標で明確な違いが見られ、なかでも非現実性の差が最も大きいことが分かりました。
また、夢に意味を求める人や、日頃から関係のない考えが浮かびやすい人ほど、この非現実性はより強く表れていました。
さらに、外出が制限されていた時期には、行動の制限や社会的な交流に関する話題が夢の中で増え、時間の経過とともにその影響は薄れていきました。
つまり、夢の内容は、実際に経験したことをそのまま再現するのではなく、その人自身の性格や、その時々に置かれていた状況によって、内容が変わると考えられます。
ただし、今回の調査対象は、イタリア語を使う健康な成人に限られており、誰にでも同じように当てはまるとは限りません。
これまで、多くの謎に包まれてきた夢ですが、AIを用いた大規模な分析が可能になったことで、その中身が少しずつ数値として明らかになり始めています。
こうした科学の発展は、夢というテーマに、これからも新たな光を当てていくと考えられます。
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※本記事は、国際的な学術誌『Communications Psychology』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
論文情報
- 公開日:2026年4月28日
- 研究機関:国際共同研究(IMTアドバンストスタディーズ・ルッカ校 / サピエンツァ・ローマ大学 / カメリーノ大学)
- 掲載誌:Communications Psychology
- 論文:「 Individual traits and experiences predict the content of dreams 」
資金提供
資金提供元:本研究は、BIAL財団、欧州連合(Next Generation EU)、イタリア大学研究省(MUR)、欧州研究会議(ERC)から資金提供を受けて行われました。
利益相反:著者らは利益相反がないことを開示しています。




