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世界的な調査において、日本人の平均睡眠時間は6時間23分であり、4年連続で最下位を記録しています。
また、成人の約4割が「6時間未満の睡眠」という背景から、YouTubeや睡眠アプリによる「安眠BGM」の利用が普及しています。
最新の脳科学では、睡眠中に音を流し続ける習慣は、脳が必要とするレム睡眠を阻害する要因となり、脳が過剰な刺激に慣れることで、睡眠の質を損なう可能性を指摘しています。
便利なアプリやガジェットが溢れる現代の睡眠環境において「音がないと眠れない」という感覚は、「静寂」という脳機能の回復を最大化させる「本来の睡眠環境」を妨げていることを意味しています。
この記事を読んでわかること
- 睡眠時の新生児や乳幼児に「音刺激」が与える影響
- 安眠BGMが「レム睡眠」を平均19分も減少させる理由
- 騒音対策として睡眠アプリなどを併用することに潜む「中途覚醒」のリスク
※本記事は科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。診断や治療については必ず専門医にご相談ください。
目次
それでは、根拠となる最新のエビデンスを詳しく見ていきましょう。
ペンシルベニア大学医学部による「安眠BGM検証」
今回Synclyeeが選定したエビデンスは、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部の精神医学教授であり、睡眠と時間生物学の権威であるマティアス・バスナー博士(Mathias Basner, MD, PhD)らによって実施され、欧米の健康な成人25名を対象に、高度な睡眠計測器を用いて、航空機騒音やピンクノイズ、さらには耳栓が睡眠段階(深い睡眠やレム睡眠)にどのような影響を与えるかを7日間にわたり厳密に調査した研究に基づいています。
また、サウンドマシン(YouTubeや睡眠アプリなどの「安眠BGM」)が睡眠に及ぼす影響について、以下の驚くべき事実が判明しました。
- 耳栓の圧倒的優位性: 騒音環境下において、耳栓は航空機騒音による深い睡眠(N3)の減少(約23分)をほぼ完全に防ぐことが示されました。参加者は、ノイズを流すよりも耳栓を使用した方が、睡眠が深く、翌朝の覚醒度も高いと回答した。
- レム睡眠の消失: ピンクノイズ(安眠BGMなどの一定の雑音)単独での使用は、通常の睡眠と比較してレム睡眠の時間を平均19分短縮させた。
- 騒音併用の弊害: 外部騒音(航空機音)を打ち消そうとピンクノイズを併用した場合、深い睡眠(N3)とレム睡眠の両方が短縮され、夜間の覚醒時間が15分増加した。
専門誌「Sleep」
Sound machines might be making your sleep worse(2026/02/04)
この記事を読み解くキーワード
- ピンクノイズ
滝の音や激しい雨音、あるいはテレビの砂嵐の音(ホワイトノイズ)をより低周波に寄せた「耳心地が良いとされる一定の雑音(50デシベル程度)」のこと。
多くの安眠BGMやサウンドマシンに採用されています。
- 睡眠段階
脳と身体を休める「ノンレム睡眠(N1-N3)」と、記憶の整理を行う「レム睡眠」の計4段階で構成
- 深い睡眠(N3)
脳と身体の疲労回復に最も重要な「徐波睡眠(デルタ波)」の段階
Synclyee’s View
絶え間ない情報処理による「レム睡眠」の消失メカニズム
レム睡眠は、記憶の定着や感情の整理、脳の発達において不可欠な役割を担っています。
しかし、安眠を目的として使用されるピンクノイズなどの「広帯域ノイズ」は、睡眠中も脳を刺激し続ける特性があります。
ペンシルベニア大学の調査では、ピンクノイズの使用によってレム睡眠が平均19分も短縮されることが判明しました。
これは、安眠BGMが脳に「絶え間ない情報処理」を強いてしまい、脳が完全にリラックスして「深い睡眠段階」へ移行するプロセスを阻害していることを示唆しています。
安眠BGM併用が招く「睡眠構造」の崩壊
外部の騒音を打ち消すために安眠BGMを重ねる行為は、睡眠の質をさらに悪化させるリスクを孕んでいます。
- 深い睡眠(N3)とレム睡眠の短縮:外部騒音とピンクノイズを併用した場合、脳への負荷が増大し、身体の回復に重要な「深い睡眠(N3)」と記憶の整理に寄与する「レム睡眠」の両方が短縮されます。
- 夜間覚醒の増加:この併用環境下では、夜間の覚醒時間が15分増加するというデータが出ており、睡眠の連続性が分断されます。
- 耳栓による遮断の優位性:航空機騒音などの環境下において、深い睡眠の減少(約23分)をほぼ完全に防いだのはノイズによる上書きではなく、耳栓による物理的な「遮断」でした。
脳の休息を優先する「静寂」という選択肢
今回のエビデンスは、音が脳に与える影響を再考させる重要な視点を提供しています。
- 覚醒度の差:ノイズを流すよりも耳栓を使用した方が、翌朝の覚醒度が高いと報告されています。
- リラックスへの移行:脳が真に求めているのは「新たな音による上書き」ではなく、情報処理を停止できる「静寂」な環境です。
このように、流行の安眠ツールを安易に受け入れるのではなく、脳の生理学的メカニズムに基づいた環境整備が重要であることが示唆されています。
【 用語解説 】
広帯域ノイズ
特定の周波数ではなく、広い周波数帯域にわたって連続的に分布するノイズ。周波数が安定せず、広い範囲(100MHz~300MHzなど)で山なりに発生するのが特徴です。
睡眠段階 (Sleep Stages)
ノンレム睡眠(脳の休息・身体の修復)
ステージN1:浅い眠りで、眠りに入る初期段階。
ステージN2:心拍数と呼吸が遅くなり、少し眠りが深くなる。
ステージN3:深い眠り(徐波睡眠)の段階。脳が休息し、成長ホルモンが分泌される状態で、身体の疲労回復や免疫の修復が最も行われる時間。
レム睡眠(身体の休息・記憶の整理)
身体は脱力しているが、脳は活動している段階。
夢を見ることが多く、記憶の整理や定着に関係する。
特に注意が必要なケースと利用のリスク
睡眠対策として、新生児や乳幼児への「安眠BGM」の使用には注意する必要があります。
脳が急速な発達段階にある子供にとって、レム睡眠の減少は将来的な認知機能や情緒の発達に影響を及ぼす可能性があります。
また、ピンクノイズやホワイトノイズを日常的に流し続けることは、自ら睡眠を浅くする原因を作ることになります。
特に、外の騒音を消すために音を重ねる行為は、脳に二重の処理負担を強いることになり、結果として夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒」を招く可能性があります。
まとめ
- レム睡眠の短縮と脳への負荷:安眠を目的としたピンクノイズなどの音刺激は、睡眠中も脳に「継続的な情報処理」を強いるため、レム睡眠を平均19分減少させる事実が判明している。
- 睡眠構造の崩壊と中途覚醒のリスク:外部騒音を打ち消すために音を重ねる行為は、脳への負荷を増大させ、深い睡眠(N3)とレム睡眠の両方を短縮させるだけでなく、夜間の覚醒時間を15分増加させる要因となる。
- 「耳栓」による睡眠の保護:騒音環境下において、新たな音による上書きよりも、耳栓による物理的な「遮断」が圧倒的に優位であることが実証されている。
- 発達段階における「音刺激」の影響:脳が急速に発達する新生児や乳幼児にとって、継続的な音刺激によるレム睡眠の減少は、将来的な認知機能や情緒の発達に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
※本記事は、ペンシルベニア大学医学部(Penn Medicine)が公開した公式発表および、専門誌『Sleep』に掲載された研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。
参照元
- ScienceDaily: Sound machines might be making your sleep worse
- University of Pennsylvania School of Medicine: Sound machines might be making your sleep worse (February 4, 2026)



