感染症で体調を崩すと、食欲が落ちるのはなぜ?|腸の感覚細胞に着目した研究

女性がベッドの上に座り、腹痛で苦しんでいる様子

※この記事は 約4分 で読めます。

感染症に罹ると食欲が落ちるのは、胃腸が弱っているからだと思っていませんか?

実は、人間だけではなく、多くの動物でも病原体による感染に伴い「食欲の低下」が起きると言われています。

米カリフォルニア大学サンフランシスコ校などの研究では、寄生虫の感染が進んで、免疫反応が続く状況下では、腸の感覚細胞同士の信号伝達が脳まで届き、マウスの食べる量が減少することが確認されました。

  • 腸の感覚細胞である「タフト細胞」と「EC細胞」の信号伝達が、食べる量の減少に関わっていた可能性が示された。
  • 「アセチルコリン」と「セロトニン」の信号が、迷走神経を経由して、脳にまで届いていた。
  • 「タフト細胞」をもたないマウスと、「アセチルコリン」をつくれないマウスは、寄生虫に感染しても、食べる量が減らなかった。

本記事は、科学的知見や専門家の知見、研究データの紹介を目的としており、医学的アドバイスではありません。
診断や治療については、必ず専門医にご相談ください。
また、本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。最新の情報については、必ずご自身でご確認ください。

用語解説

小腸や大腸などの上皮組織に、ごくわずか(1.0%未満)だけ存在する特殊な細胞です。細胞の表面に、ブラシ状の突起(微絨毛)をたくさん持っているのが特徴で、「ブラシ細胞」とも呼ばれます。寄生虫などの刺激を感知すると、免疫の伝達物質(サイトカイン)であるIL-25を放出し、免疫反応の司令塔になると言われています。

胃や腸などの消化管粘膜に存在する内分泌細胞の一種で、体内のセロトニンの約90%を生産していると言われています。セロトニンを放出することで、腸管の「蠕動(ぜんどう)運動」を調節したり、毒素や特定の病原体などが腸に届くと、セロトニンを過剰に放出したりします。

12対ある脳神経の10番目で、脳の延髄から出て、頭部から腹部まで届く、最も長い脳神経です。心臓や肺、食道、胃や腸などの消化管に分布し、副交感神経の主要な神経として、心拍数を下げたり、消化活動を促したりします。感覚を司る神経線維も含み、脳と心臓、消化管の間で情報をやり取りしています。

運動神経:脳からの指令を筋肉に伝える役割があり、アセチルコリンが筋肉に届くことで、手足などの骨格筋が収縮します。
副交感神経:自律神経のうち、体をリラックスさせる副交感神経に作用します。心拍数を下げたり、胃や腸の消化活動を促したりします。
中枢神経:脳内において、記憶の形成や学習能力、集中力、覚醒(睡眠と目覚めのリズム)などに関わっています。

消化管:体内のセロトニンの約90%は消化管にあると言われており、腸の運動や水分の分泌調節に関わっています。
中枢神経:脳内では、気分の調整や、睡眠と覚醒のリズムに関わっており、「幸せホルモン」の一つと言われています。


公開日:2026年3月25日

掲載誌:Nature

論文:「 Parasites trigger epithelial cell crosstalk to drive gut–brain signalling 」


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著者:SHO|鍼灸師

豪華客船の専属鍼灸師として、40ヶ国160都市以上を巡り、世界中のクライアントを治療してきた経験を持つ治療家。

現在の日本では、ほとんどの人は経験しない寄生虫感染ですが、衛生環境が整っていない熱帯・亜熱帯の地域では、汚染された土を裸足で歩くと、皮膚から鉤虫(こうちゅう)と言われる寄生虫が体内に入ることで、感染症になる事例も報告されています。

また、腸にある感覚細胞のうち、「タフト細胞」は寄生虫を感知して免疫反応を始動させ、「EC細胞」は細菌などの刺激を感知してセロトニンを放出すると言われています。

さらに、EC細胞が放出したセロトニンは、近くの神経に信号を伝え、吐き気に似た不快感や痛みを引き起こすとされています。

そこで研究チームは、寄生虫に感染させたマウスなどを対象に、腸の感覚細胞の機能と食べる量の変化を調べました。

寄生虫をマウスに感染させたところ、腸の感覚細胞同士に信号伝達が確認され、感染後7~9日目に食べる量の減少が見られました。

通常は、神経のように電気信号を出す仕組みを持たない「タフト細胞」ですが、寄生虫に感染することで、神経伝達物質である「アセチルコリン」を放出すると言われています。

今回の研究では、免疫反応が続く状態で、この物質が「EC細胞」に伝達されると、別の神経伝達物質である「セロトニン」が放出され、迷走神経を介して、脳にまで信号が届くことが確認されました。

一方で、タフト細胞をもたないマウスや、アセチルコリンをつくれないマウスでは、同じ感染でも食べる量の減少は見られませんでした。

つまり、感染によって食べる量が減少する仕組みには、「タフト細胞」から「EC細胞」への信号伝達が関係していました。

ただし、マウスの食べる量を調べた結果なので、吐き気や腹部の不快感に伴う「食欲の低下」を直接調べたものではありません。

今回のマウスを使った研究では、寄生虫に感染すると、腸の感覚細胞である「タフト細胞」から「EC細胞」に信号が伝達され、迷走神経を介して、脳にまで信号が届くことによって、食べる量が減少することが確認されました。

しかし、あくまでマウス実験による反応なので、人間でも同じ結果になるとは限りません。

それでも、感染症に罹ったときに食欲が落ちるのは、胃腸が弱っているだけではなく、腸から脳へ信号が伝達されることによって、引き起こされている可能性があると言えるでしょう。

「Medical Research」と書かれた紙と足関節のレントゲン、医療書、解剖模型が並んでいる画像

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※本記事は、国際的な学術誌『Nature』に掲載された海外の査読済み論文および一次研究データに基づき、科学的エビデンスを確認した上で執筆されています。

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期間:寄生虫の感染後11日間
対象:雌雄のマウス(主に8〜16週齢)
比較したマウス:野生型 / タフト細胞をもたないマウス(Pou2f3欠損) / 腸の上皮でアセチルコリンをつくれないマウス(Chat欠損) / EC細胞の伝達物質の放出を止めたマウス(PFTox)
感染条件:Nippostrongylus brasiliensis(ヒトの鉤虫感染のモデル / げっ歯類の寄生虫)の幼虫500匹 / 皮下感染
測定項目:摂取量 / セロトニンとアセチルコリンの放出 / 腸の神経活動 / 脳幹の反応
測定手法:摂取量の自動測定 / セロトニンとアセチルコリンの蛍光センサー / カルシウムイメージング / 腸の神経線維の記録 / FOS染色(神経が反応した目印)
免疫反応の再現:マウスにIL-25(免疫反応を起こす物質)500 ngを1日1回(4日間)注射 / 培養した腸の組織(オルガノイド)にIL-4(免疫反応を起こす物質)を添加
アセチルコリンの放出:一時的(コハク酸など寄生虫感染の初期を模した刺激) / 持続的(IL-4処理で45分以上)
TRPM5拮抗薬(一時的な放出を止める薬)の影響:持続的な放出は止まらない
EC細胞の反応部位:腸の壁の奥のくぼみ(陰窩)のみ / 表面の突起(絨毛)は反応なし
アトロピン(ムスカリン受容体を止める薬)の影響:アセチルコリンによるEC細胞の反応が消失
セロトニンの放出:免疫反応が続く状態で増加 / 一時的な刺激では少量
迷走神経の反応率:セロトニン受容体の作動薬68% / アセチルコリン28%
孤束核(脳幹)の反応:免疫反応が続く状態で反応 / EC細胞を止めたマウスでは反応なし
研究機関:カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国) / 南オーストラリア健康医学研究所・アデレード大学(オーストラリア) / 北京大学(中国)
資金提供元:米国国立衛生研究所(NIH) / ハワード・ヒューズ医学研究所 / オーストラリア国立保健医療研究評議会(NHMRC) / 中国国家自然科学基金 / New Cornerstone Science Foundationなど
利益相反:著者らは利益相反がないことを申告しています

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豪華客船の専属鍼灸師として、40ヶ国160都市以上を巡り、世界中のクライアントを治療してきた経験を持つ治療家。
24歳で全国グループの鍼灸整骨院にて責任者・エリア統括を歴任し、27歳で海外へ。
現在は、13年の臨床経験と海外で培ったグローバルな知見をもとに、世界最前線の情報を精査し、Synclyeeで発信しています。

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